相続の手続きは、社会で生きていると必ず経験するといってもおかしくない手続ですが、一生のうちに何度も経験することはありません。是非ともトラブルを避けて、上手に手続きを完了させたいものです。そこで、相続が発生した時に、まず押さえておきたいポイントを4つ紹介しておきます。
この記事の目次
相続財産は何がある?(遺産の把握)
相続財産に何があるのか、相続財産の調査はとても重要です。相続財産とは、相続の対象になる遺産のことです。相続財産というと、一般的には現金や預貯金、有価証券、不動産、ゴルフ会員権、骨董品などのプラスの財産だけが相続財産と思いがちですが、それ以外にもマイナスの財産、借金などの負債も相続財産となります。
そして、基本的には、相続税の計算の場合には、相続発生時が基準となります。
遺産の把握のポイントとしては、被相続人の住居にある確定申告書の控え、権利証、通帳、銀行や証券会社からの通知、キャッシュカード、クレジットカード、保険会社の証券、クレジットカードの利用明細、固定資産税の課税明細書などがあれば、遺産の全容がつかみやすいです。
ただ、最近はネット銀行やネット証券を利用される方が増えてきていますので、通帳や取引履歴が手元にないケースもあります。クレジットカードの利用明細などチェックして引き落とし口座の記載があるかどうかを確認していくといいでしょう。スマートフォンを持っている方の場合には、アプリなどの確認をしていくと、ログインできないにしても取引がある金融機関が判明するかもしれません。
預貯金の調査
預貯金があることが判明したら、死亡日における残高証明書の発行を銀行に依頼しましょう。
残高に不明な点がある場合には、過去の入出金の取引履歴を請求することによって、どこに資金が移動したか、誰に支払いを行ったかなどが判明する場合もあります。
ネット銀行などの場合には、パソコンのお気に入り、スマートフォンのアプリの確認などで判明することもあります。
残高証明書は相続人の全員からの請求ではなく、一人から請求ができます。銀行によって必要書類が異なりますので事前に確認しましょう。
不動産の調査
不動産については権利証(または登記識別情報通知)や固定資産税の課税明細書などに記載されている、所在、地番、家屋番号などを確認します。
権利証や登記識別情報通知、固定資産税の課税明細書が見つからない場合には、市役所で名寄帳(なよせちょう)を取得します。
名寄帳とは、固定資産税の課税の対象となっている不動産を所有者ごとに一覧表にされているものです。
⇒名寄帳は固定資産税がかかる不動産(宅地や住宅など)しか記載されない市役所と固定資産税が発生しない不動産(公衆用道路など)も記載する市役所があります。
京都府内の市役所では、京都市役所は非課税の不動産は名寄帳には記載されませんが、宇治市役所では記載されます。
名寄帳は、被相続人の不動産を正確に把握できる有効な書類ですが、それだけではパーフェクトではないことを覚えておいてください。
不動産が判明した後に、固定資産税の評価証明書を取得しましょう。不動産の名義変更(相続登記)や評価額の確認に必要になります。また、固定資産税の課税明細書や名寄帳がある場合には、評価額が記載されていますので評価証明書を費用をかけて取得しなくても相続登記手続きで使用することができます。
ポイント
①同居していなかった兄弟が死亡した場合、その兄弟がクレジット会社などから借金をしていると、ある日突然、クレジット会社などから督促が来ることもあります。死亡者に子供も親もいなければ、兄弟姉妹が相続人となるからです。このような場合に、「相続放棄」という手続きをしておかないと、借金を相続したことになり、支払をしなければならないことになります。
②死亡保険金は、基本的には相続財産とはなりません。死亡保険金は、被相続人から相続人に相続されるものではなく、受取人の固有の権利になります。ただ、生命保険金は、一定額を超えると、相続税の課税対象とみなされる場合がありますので注意が必要です。
③一身専属的な権利であるものも相続の対象とならない場合があります。年金や生活保護の受給権などは相続財産とはなりません。司法書士などの資格についても相続の対象にはなりません。
誰が相続人になる?(法定相続人の調査)
誰が相続人となるか、また相続人となる順位については、法律によって定められています。順位が先の相続人全員が家庭裁判所の手続きで相続放棄をすると、次の順位の人が相続人となります。たとえば、被相続人の子の全員が相続放棄すれば、次順位である直系尊属、直系尊属も全員が放棄をすると、兄弟姉妹が相続人となります。このとき、配偶者は常に相続人となります。
法定相続人とは、法律により定められた「被相続人(亡くなられた方)の権利や義務を相続する人」のことをいいます。相続人を確定させる相続人調査というのは、非常に大事な作業になります。被相続人の出生から死亡時までの、全ての連続した戸籍謄本等の収集が必要になります。この作業については専門家に依頼することが出来ます。お仕事などで、戸籍を請求していく時間が取れない場合には、専門家に依頼するのも一つの方法です。相続人調査の結果、被相続人に配偶者(夫、妻)がいると、その配偶者は必ず相続人となります。
ここで注意が必要なのが、相続人となる配偶者は婚姻届を提出している夫婦であって、事実婚、内縁の配偶者、離婚した元妻や元夫というのは、相続人としては認められません。
被相続人の子、父母、兄弟姉妹などが、次の順位で配偶者とともに相続人になります。
第1順位 被相続人の子供
第2順位 被相続人の直系尊属(父母、祖父母 ・・・)
第3順位 被相続人の兄弟姉妹
知らない相続人がいることが判明したとき
相続人の調査によって、知らない相続人が判明することが時々ありますが、相続人を無視して手続きをすすめることはできません。自分と面識のない相続人がいることが判明した場合には、一定の経験のある専門家を頼った方が無難です。このような場合、相手の住所や電話番号を調べて、いきなり自宅に押し掛けたり、電話をして、相続放棄を迫るのは絶対にタブーです。
まずはお手紙を送り、状況を知らせることから始まります。相手の方も同じ相続人の立場にありますので、自分の希望を押し付けることはできません。
当事務所においても、複数回このような相続に対応してきております。早めにご相談ください。
相続が発生したら速やかに相続人の調査をしよう
相続が発生したとき、大至急手続きをしないといけない、ということはありませんが、早めに相続財産の調査と相続人の調査を行いましょう。調査の結果、面識のない相続人はいない、相続税は発生しない、相続放棄をする必要がない、ということが分かれば、安心できます。だからといって、その後何十年ものあいだ手続きを放置してはいけません。放置している間に、次の相続が発生して(数次相続)相続人が増えていくことがあります。
誰が何を相続する?
誰が何を相続するのかを話し合うことを遺産分割協議といいます。相続財産に何があるかわかったとしても、遺産分割協議がまとまらないと、いつまでも相続財産の帰属先が不明の状態となってしまいます。いつまでも遺産分割協議がまとまらないと、その間に次の相続が発生して、相続人が増えてしまうこともあります。出来るだけ早めに遺産分割協議を行いましょう。
この協議は誰がどの遺産をどれだけ相続するかという分割方法と内容を決めていきます。遺産分割協議がまとまれば、遺産分割協議書を作成します。専門家に作成を依頼される方が多いですが一般の方でも作成することができます。自分で作成した場合には、必ず専門家のチェックを受けるようにしましょう。相続人全員の合意があれば、法定相続分と異なる割合で遺産を分配することも可能です。
相続税が発生するのかどうか?
平成27年1月1日に施行された税制改正で相続税の基礎控除が大きく引き下げられたことにより、相続税が発生するご家庭が増えています。たとえば、都市部に自宅や土地があると、不動産の評価額が高額になるために、想像していなかったような高額な相続税が課税される可能性もあり、こうしたときに、相続税を支払うだけの現金がないため、支払ができずに相続財産である実家の土地建物などを売却しなければならなくなったりすることもあります。
預貯金については、死亡日おける残高証明書を発行して、残高を確認
不動産については、土地は死亡した年の路線価、建物は死亡した年の固定資産税評価額を確認
基礎控除額は「3000万円+(相続人の数✖600万円)」となっています。
生命保険については別枠の控除があり、相続人の人数✖500万円までは相続の課税対象にはなりませんが、それを超える場合にはみなし相続財産となります。