前回の投稿では、相続放棄の大まかな内容を解説しました。
今回は前回の投稿の最後に書いたように、相続放棄をして少し面倒なことになったため、当事務所へ相談に来られた方のケースをご紹介していきたいと思います。
その前に前回述べたポイントをおさらいしておくと、
・相続放棄は家庭裁判所に申し立てなければならない。
・申し立てには期限が設けられている。
・一度申し立てが受理されて処理が完了してしまうと、原則取り消すことができない。
・相続放棄をした者はその相続においてはじめから相続人ではなかったものとみなされる。
となります。
さて本題に入ります。
その相談者様は、当事務所へ来られる前にすでに相続放棄を自分で申し立てていました。
相談は、父親が亡くなり父親名義の不動産の名義を変更したい、名義変更の手続きも当初は自分で行うつもりだったが問題が発生したのでなんとかしたいというものでした。
お話を伺うと、その方には、母親と兄が1人いましたので、法定相続人は、相談者様、母親、兄の3人でした。
家族間の話し合いで不動産の名義は母親1人の名義にするということになり、名義変更の方法をいろいろ独自で調べていくうちに、相談者様と兄が相続放棄をすれば相続人は母親1人になる(後述しますが必ずしも1人になるとはかぎりません)ので、名義変更がスムーズに進むのではないかという結論に至ったとのことでした。
そして、相続放棄の申し立てが受理され、いざ法務局に名義変更の手続きで訪れたところ、法務局から相談者様と兄が相続放棄をした結果、後順位の相続人が出てくるため、母親だけの書類では名義変更はできないと指摘されるという結果になり、専門家に一度相談してみようと当事務所を訪れたとのことでした。
本来第1順位の相続人である2人(相談者様と兄)が相続放棄をしたことで、相談者様の父親には相続する子がいないとみなされ、相続権が第2順位の相続人である直系尊属(このケースでは相談者様の父方の祖父母)に発生してしまいました。
さらに、このケースではその方々も亡くなられており、第3順位の相続人である兄弟姉妹(相談者様の父親の兄弟姉妹)にまで相続権が発生しました。
そして、その第3順位の相続人の中にもすでに亡くなられている方がおられ、その亡くなっている方の配偶者や子どもにまで相続権が発生していました。最終的に相続人の人数は9人に膨れ上がりました。
相談者様との話し合いの結果、相続放棄の申し立てを取り消すことができれば、相続人が第1順位の相続人3人へと戻るので、試行錯誤しながら家庭裁判所へ相続放棄の取消しを求めることになりました。
結果は、認められませんでした。やはり取消しが認められうる特別な事情等(特別な事情の内容はここでは割愛させていただきます)がないと取り消すことは困難です。(別途裁判で相続放棄の有効性を争うことは可能です)
相続放棄の取消しは認められませんでしたが、最終的には、相談者様が相続人へ今回の事情を説明し、遺産分割協議書に全員分の署名押印をもらうことができ、相談者様の母親名義での登記申請は無事完了しました。
最初に相続放棄することなく、名義を母親にするという遺産分割協議を3人でしておけば、必要以上の余分な労力がかからなかったという事例でした。
以上、相続放棄をして少し面倒なことになってしまったケースをご紹介してきました。
現在は、インターネットの普及によりお年寄りから子どもまで様々な情報を自分で調べることができる時代です。それだけに、その情報の真偽を見極める力、正しく使う力も使い手側には一層求められてきているように感じます。
そこに私たち専門家の知識が少しでもお役に立てば幸いだと思います。