遺産を相続をする際には、一般の方がよく疑問に思う手続きや事前に準備しておくべき書類などがたくさんあります。また、遺産相続の手続きの全体の流れを事前に把握しておかないと、先の見えない手続きとなってしまいます。ここでは、相続手続きを絶対に失敗することのないように、また相続の手続きの全体の流れがわかるように、遺産相続の基礎知識を解説していきます。
遺産相続は、相続放棄・限定承認・遺留分減殺請求などの法律上の手続きや、準確定申告、相続税の申告などの税金の手続きにおいて期限のあるものもあります。その期限をすぎてしまうと、多額の負債を相続する事になったり、ペナルティが発生することもあります。相続が発生したらできるだけ早くに手続きを行いましょう。被相続人の財産(遺産)に不動産や預貯金がある場合には、司法書士に依頼をした方がいいでしょう。不動産は登記手続が必要となりますので弁護士や税理士に依頼をした場合でも、結局は司法書士に依頼することになるからです。
この記事の目次
遺産相続とは
遺産相続とは被相続人(ひそうぞくにん=亡くなった方)の死後に残された財産を相続人が承継することをいいます。相続が発生した際に、被相続人が遺言書を作成していないときには、誰がどの遺産を相続するかは相続人全員の話し合いで決めることになります。この話し合いのことを遺産分割協議といいます。遺産分割協議の際に争族対策がされていないときには財産をめぐって争いが生じることもあります。
遺産相続 手続の流れ
遺産相続の手続きをする前に、まずは相続手続き全体の流れを把握してください。これを理解しておくと、それぞれ個別の手続きがどの段階の手続きになるのかがわかります。
被相続人の死亡
- 死亡届(死後7日以内、国外で死亡、その事実を知ってから3ヶ月以内)
- 葬儀
- 銀行・証券会社・生命保険会社等の取引金融機関への連絡
- 遺言書の確認、自筆遺言がある場合、検認手続(家庭裁判所)
- 相続人調査(戸籍等の収集作業)
- 相続財産調査(預貯金額、有価証券の有無の確認、不動産の名義の確認等)
- 年金事務所への年金受給権者死亡届の提出
- 相続放棄、限定承認もしくは熟慮期間の延長(相続開始後3ヶ月)
- 準確定申告(相続開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内)
- 相続人全員による遺産分割協議(相続放棄者は除きます)
- 不動産の名義変更、預貯金払い戻し、有価証券等の名義変更
- 相続税の申告、納税(相続開始後10ヶ月)
- 遺留分減殺請求(相続開始と遺留分侵害があったことを知ってから1年以内)
基本的には上記のような手続きの流れとなります。
期限内に手続が必要なもの
相続開始から7日以内の手続|死亡届の提出
1番最初に行う手続きになりますが死後7日以内に提出する必要があります。国外で死亡した場合には、その事実を知ってから3カ月以内となっています。提出先は死亡した場所、故人の本籍地、届出人の住所地の役場となります。死亡届を提出しますと「埋葬許可証」を受け取ることが出来ます。「埋葬許可証」は、お寺へ納骨する時などに必要となりますので大切に保管するようにしましょう。実際の作業としては葬儀会社の方が申請してくれることが多いです。電車等の交通機関による移動中に死亡してしまった場合等には、交通機関から死体をおろした所在地の役場に提出することになります。
相続開始から3カ月以内の手続|相続放棄・限定承認
相続放棄も限定承認はどちらの手続きも相続開始後3ヶ月以内に家庭裁判所に対して申立をする必要があります。基本的にはどちらの手続も被相続人に負債がある場合に検討することになります。
相続放棄とは
相続放棄とは、プラスの資産もマイナスの負債も含めて、一切の遺産相続をしないことです。相続放棄の申述を家庭裁判所に行いますと相続人ではないことになります。負債が多いときには相続放棄することで支払いをしなくてよくなりますが、プラスの資産も相続することができなくなります。この判断は非常に大事な判断となりますので専門家の意見を聞いてから判断するようにしましょう。
相続放棄における、よくある間違い
一般の方が相続放棄においてよく間違えて認識しているのが、相続放棄と遺産分割においての財産放棄とを混同している方が非常に多く見受けられます。
例えば、父親に相続が発生して、母親に全財産を相続させたい、というようなケース。
このケースで母親に全財産を相続させたい場合には、子供は相続放棄(家庭裁判所における相続放棄)をしてはいけません。なぜなら、子供が相続放棄をしてしまうと第一順位の相続人がいなくなってしまい、相続人は妻と夫の直系尊属(両親や祖父母のこと)になってしまいます(第二順位の相続人)。つまり夫の父親か母親もしくは両親が元気でいる場合には、妻は夫の父親か母親もしくは両親と遺産分割協議をしなくてはいけません。このケースでは遺産分割協議の中で子供は財産放棄をすればいいのです。
一方で直系尊属が全員死亡している場合もよくあります。その場合には夫の兄弟姉妹が第三順位の相続人となり、妻は夫の兄弟姉妹と遺産分割協議をしないといけないことになります。
このようなことにならないように、相続放棄を検討している場合には必ず、専門家の意見をきいてから判断するようにしましょう。
限定承認とは
限定承認とは、相続財産の全体的な調査をして、その財産から債権者や受遺者に借金等の支払をして、資産が残れば相続人が受けとることができる手続きです。限定承認をすると、プラスの資産からマイナスの負債を差し引いて、資産が残れば相続人が受けとることができますし、もし借金が上回っていたら借金を相続することはありません。
注意が必要なのが限定承認は相続人全員でする必要があります。一人だけが限定承認をすることは認められていません。また、限定承認には先買権というものもありますのでこの財産だけは相続したい、というようなケースでは有効な手続きとなるかもしれません。
先買権とは、取得を希望する遺産について家庭裁判所が選任した鑑定人が評価をし、相続人が評価額を支払うことによって特定の遺産を取得できる制度のことをいいます。
相続開始後3ヶ月以内とは
相続放棄も限定承認も、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」に家庭裁判所に申立をする必要がありますが、「自己のために相続の開始があったことを知った時から」の考え方は以下のとおりです。
・相続財産があることを知った
この条件をみたしてから、3カ月となります。
相続放棄・限定承認の手続方法・必要書類
申したてる家庭裁判所・・・被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
収入印紙・・・800円
必要書類・・・相続放棄と限定承認で若干書類が異なります。
相続放棄
被相続人の住民票除票又は戸籍附票
申述人(放棄する方)の戸籍謄本
(申述する方が被相続人の配偶者の場合)
被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(申述する方が被相続人の子又はその代襲者(孫,ひ孫等)(第一順位相続人)の場合)
被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
申述人が代襲相続人(孫,ひ孫等)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(申述する方が被相続人の父母・祖父母等(第二順位相続人)の場合)
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母))がいる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(申述する方が被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(第三順位相続人)の場合)
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
申述人が代襲相続人(おい,めい)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
限定承認
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
被相続人の住民票除票又は戸籍附票
申述人全員の戸籍謄本
被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(申述する方が被相続人の配偶者と父母・祖父母等(第二順位相続人)の場合)
被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る(例:相続人祖母の場合,父母と祖父))がいる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
(申述する方が被相続人の配偶者のみの場合,又は被相続人の配偶者と兄弟姉妹及びその代襲者(第三順位相続人)の場合)
被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいらっしゃる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
代襲者としてのおいめいで死亡している方がいる場合,そのおい又はめいの死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
仕事の関係で期限内に手続が出来そうにない場合は、早めに専門家に相談しましょう
相続開始から4カ月以内の手続|準確定申告
被相続人が確定申告をしなければならない場合には、相続人が代りに確定申告を行う必要があります。年の中途で死亡した人の場合は、相続人が、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をする必要があります。死亡の日までに支払った医療費、社会保険料、生命保険料、地震保険料控除などを計算して税金の納付・申告をする必要があります。
死亡後に相続人が支払ったものを被相続人の準確定申告において医療費控除の対象に含めることはできません。
相続開始から10ヶ月以内の手続き|相続税の申告
相続税の申告は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。この期限が土日、祝日の場合には、これらの日の翌日が期限となっています。不動産が遺産としてある場合に相続登記を行う日が基準となるわけではありません。相続や遺贈で取得した相続税の課税の対象となる財産の合計額が基礎控除額の範囲内であれば申告も納税も必要ありませんが、基礎控除の額以上の財産がある場合には、相続登記が出来ている出来ていないにかかわらず、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内申告と納税が必要です。
相続税がかからない=相続税の申告が不要 ではありません。相続時精算課税制度を利用して生前贈与を受けていた場合などにも申告が必要となりますので要注意です。
遺産分割協議書の作成
相続人が一人の場合には遺産分割協議をする相手がいませんので必要ありませんが、相続人が二人以上いる場合で法定相続分と異なる相続をする場合には、遺産分割協議をする必要があります。遺産分割協議は相続人全員でする必要があり、その結果を書面にしたものを遺産分割協議書といいます。相続税の申告が必要であった方で法定相続分どおりの相続でない場合には遺産分割協議書の作成も必要となります。
申告期限までに遺産分割協議が成立した場合には、以下の税務上の優遇措置が受けられます。
■配偶者に対する税額軽減(配偶者の法定相続分または1億6000万円)
■小規模宅地についての課税価格の低減
逆にいいますと、申告期限までに遺産分割協議が成立しない場合には上記の優遇措置が受けられないことになります。
相続開始から1年以内の手続|遺留分減殺請求
遺留分とは、相続人に認められる最低限の相続の権利のことをいいます。相続できることに対する期待権ともいえます。そして、遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害された相続人が、遺留分の取り戻すための手続きです。期限が定められており、その期限を経過してしまうと遺留分の請求ができなくなります。
遺留分のある人
遺留分があるのは兄弟姉妹以外の法定相続人になります。兄弟姉妹以外というと配偶者と子供、親になりますが、先に死亡しているような場合には代襲相続人にも遺留分が認められます。たとえば、子供が被相続人より先に死亡している場合にはその子(孫)が代襲相続人となりますが、その孫にも遺留分が認められています。
遺留分がない人
遺留分がないのは兄弟姉妹が法定相続人となる場合、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。また、兄弟姉妹が先に死亡していた場合の代襲相続人も遺留分は認められません。ちなみに、外国籍の方に相続が発生した場合には兄弟姉妹にも遺留分が認められている国もありますので、注意しなければいけません。内縁の妻(夫)、事実婚の相手方にも遺留分はありません。
遺留分の請求が出来ない人
被相続人の生前に家庭裁判所の許可を得て遺留分の放棄をした法定相続人も遺留分の請求をすることができません。また、被相続人の配偶者、子供や親であったとしても、相続放棄をしてしまうと遺留分の請求はできません。相続欠格者、相続排除された人も遺留分の請求はできません。
遺留分減殺請求の対象となる財産は
遺留分減殺請求の対象となる財産は「遺贈」「死因贈与」「生前贈与」の3種類です。
相続登記には期限はありませんが放っておくと危険です
不動産の相続登記(名義変更)はとても大事な手続です。相続登記とは、被相続人が土地建物の不動産を所有していた場合、所有者としての名義を相続人名義に変更することをいいます。法務局に登記申請をして、被相続人名義から相続人名義に変更することをいいます。相続登記には期限がありません。相続が発生してすぐにすることも、また10年後20年後でも名義変更をすることもできます。また、相続登記をせずに放置していたことによる罰則もありません。
ただ、相続登記を長年放置したことにより、次の相続が発生して(数次相続)しまい、相続人が増えてしまったことにより遺産分割協議ができなくなってしまった、というケースがよくあります。話し合いで遺産分割協議がまとまらない場合には、裁判所において遺産分割調停を行うことになりますので費用と時間がかかってしまいます。相続が発生した場合に、遺言書がない場合にはできるだけ早めに相続登記を行うべきです。
まとめ
遺産相続の手続には期限があるものは期限の管理が重要です。相続放棄や準確定申告、相続税の申告や納付、遺留分減殺請求などは、期限を過ぎてしまうと手続自体ができなくなったり、税金面での優遇が受けられなくなったり、延滞税が発生することもありますので、早めに手続を行うようにしましょう。特に遺産に不動産がある場合には、相続登記に期限はありませんが遺産分割協議が成立したらすぐに相続登記を司法書士に依頼しましょう。
遺産相続の手続は書類も多く、複雑で面倒なことが多いので、自分で全てを済ませるのが大変な場合があります。そのような場合、相続手続に強い司法書士に相談すると法定相続証明情報の取得など適切かつスピーディに手続完了までサポートすることが可能です。プロですので、相続手続の全般のアドバイスも可能です。また、弁護士や税理士と提携していますので、ワンストップですべての遺産相続を行うことができます。もし、遺産相続で不安を抱えているのであれば一度、遺産相続に強い司法書士に相談してください。
二次相続をも考慮した相続対策を検討されるのであれば、[元木司法書士事務所]へご相談ください。