以前のブログで紹介した遺産分割協議 遺産分割の流れ③の続きで「遺産分割後の諸問題」について解説していきます。
遺産分割後の諸問題
遺産分割協議によって合意が成立し協議書が作成された後に、当該遺産分割の前提事実に瑕疵(欠陥、不具合)等があることがあきらかになることがあります。
この記事の目次
(1)相続人に関する瑕疵
共同相続人の一部を除外して遺産分割協議がなされた場合には、失踪宣告が取り消された場合、死後認知の場合(被相続人が亡くなったあとに認知請求があり、その子が新たに相続人となった場合)を除いて、遺産分割協議は無効となると考えられています。失踪宣告が取り消された場合、死後認知の場合は無効とはならず、金銭での調整となります。
また、相続人でない者を加えて遺産分割協議がなされた場合には、相続順位に変更をきたす場合は無効になると考えられています。但し、平成18年5月15日の高等裁判所の判決ですが、
という、判例もあり、全ての遺産分割協議が無効となるのでなく、相続人でない者が関与した部分だけが無効にする、という判例です。
つまり、相続人でない者に分割された財産の割合が低く、遺産分割協議に大きい影響がない場合には、その財産を返還させた上で、あらためてその財産についてだけ相続人間で遺産分割をすればよいと考えられています。
(2)遺産に関する瑕疵
遺産の一部が抜け落ちたまま遺産分割がされた場合には、抜け落ちていた遺産が重要なものであり、当事者がその遺産のあることを知っていたらこのような遺産分割協議はなされなかったであろうと考えられ、分割をやり直すほうが公平であると認められる場合には、当該遺産分割協議は無効になると考えられています。
また、遺産に瑕疵がある場合(数量不足、一部が他人の所有である、隠れた欠陥があった)には、遺言による別段の意思表示がない限り、共同相続人の担保責任の問題となります。各相続人が具体的相続分に応じた額について責任を負い、損害賠償や代金減額請求に応じなければなりません。
具体的には被相続人Aの財産が不動産、預貯金2000万円、相続人がB及びCで法定相続分が2分の1である場合。
不動産の評価が2000万円あると考えて、遺産分割協議をして不動産はBが相続、預貯金はCが相続した。
実際には不動産の価値が1500万円しかなかった場合には、BはCに対して250万円の請求ができる、と考えられます
(3)意思表示に関する瑕疵
遺産分割にも民法の規定が適用されますので、錯誤による無効や詐欺・強迫により自分の意思に基づかない協議内容に合意した場合の取消しとなる場合があります。
また、相続人の中に精神上の障害により判断能力のない相続人がいる場合、そのまま分割協議を行ってもその協議は無効となります。
この場合、当該相続人について成年後見人を選任して、その成年後見人が分割協議に参加しなければなりません。
(4)遺産分割協議の解除の可否
遺産分割協議によって生じた債務を負担した相続人が、その後その債務を履行しなかったとしても、法的な安定性を考慮し、他の相続人は遺産分割協議を債務不履行を理由として法定解除することはできません。(平成1年2月9日最高裁)これは、第一審が京都地裁で第二審が大阪高裁で争われた事案です。
法定解除を認めると、法的安定性が著しく害されることになるから、という理由で認めない。との判決です。
法定解除は認められませんが、債務を負担する相続人も合意しての合意解除は認められています。
(5)遺産の再分割
一度遺産分割協議を行った後に、共同相続人全員の合意により遺産分割協議をやり直して再分割をすることは認められています。
また、当初の分割が錯誤・偽造などの原因により無効とされる場合、あるいは分割後に発生した事由によって当初の遺産分割のときの前提条件に変更が生じた場合には、再分割が認められています。しかし、再分割には、当初の相続の際の相続税のみならず、新たに贈与税が課される可能性があるという問題点があります。
(6)不動産の明け渡し
実際に多く見受けられる話にはなりますが、被相続人の財産の大半が居住用不動産であり、そこに相続人の一部が居住しているというようなケース。
居住していない他の相続人は明け渡し請求をすることが出来るのでしょうか。
結論的には、明け渡し請求はできない、との最高裁判例が出ています
相続人たる配偶者は元来その相続分に応じて相続財産を使用管理する権限があり、被相続人生前からの居住利益は、当該配偶者においてその居住を継続すべき正当性の認められる限り、他の共同相続人においてこれを尊重する必要があると解すべきであるから、遺産分割にあたつては、右配偶者の居住利益評価額を遺産評価額から控除するのが相当である。(東京家庭裁判所 昭和47年11月18)日
他にも、被相続人と一定の関係があった相続人ではない者に対しても、居住権を認め、相続人からの明渡し請求を棄却している判例もあります
一定の関係とは、内縁関係にあった、被相続人と親子同様に暮らしてきた赤の他人でも、居住権を認めた判例が出ています。
つまり、居住している相続人はそこに住み続けることが出来る、ということになります
この論点についても判例がでていますが、具体的な案件によって結論が分かれています
こういった、未然に争いが生じないように私達、司法書士が存在しています。事前に相談いただければ、紛争を防止する手段を提示できる場合が多いです。
少しでも、将来の紛争になりかねない事が予想される場合だけでなくても、一度専門家に診断してもらってみてはいかがでしょうか。